注意
コレは、最遊記のパラレルです。
三蔵一行が、舞台照明屋になっております。
尚、この物語の主軸は本番前のピン・チェックです。
明かり屋だからこそ、書くコトが出来る物語(笑)
明かり作りも順調に進み、そろそろセンターの準備をして休憩に入ろうかという頃。
「今日のポジションだがな」
チーフ観世音菩薩が三蔵、八戒、悟浄、悟空を掴まえ人の悪い笑みを浮かべ。
続けた。
「センターに三蔵、八戒、悟浄、悟空あがれ」
「あぁ」
興味なさそうに三蔵が観世音からQシートを受け取る。
「行くぞっ」
八戒・悟浄・悟空の3人を視線も向けず呼びつける。
八戒が、相変わらずの小春日和の笑顔で答える。
「はい」
「ま、頑張れや」
センターに上がる準備を始める4人のフォローマンを見つめる観世音の瞳に不穏な色が輝いた事を気付く者はなかった……。
後世にまで語り継がれる桃源ホール『瀕死の惨劇!! 』の幕開けでる。
「上から悟浄、三蔵、僕、悟空の順で良いですか? 」
馴染みの桃源ホールのピンルーム。整然と4灯並んだクセノン・ピンを前に八戒が担当を割り振る。
「なぁなぁ八戒〜俺さぁ上ピン(注・センタールームの上手に配置されたpin)の方が好きなんだけどなぁ」
駄目? と上目使いで可愛らしくお強請りするのは悟空。
「そうですねぇ。僕も上ピンの方が楽なんで好きなんですが、今日は『瀕死』(注・バレエ作品。瀕死の白鳥。タイトルそのまんま内容)があるでしょ? 」
「うん」
「『瀕死』三蔵にお任せしちゃおうかなぁ。なんて考えてるんですよ」
「うん」
「ですから、悟空下ピン(注・センタールームの下手に配置されたpin)で我慢して欲しいんです」
「了解! 」
「悟空は本当に良い子ですねv」
八戒はクシャリと聞き分けの良い後輩の頭を撫でる。悟空はくすぐったい笑顔で、いそいそと割り当てられたピンの準備に入った。
八戒も満足そうに自分の受け持つピンを準備する。
下から2台目。整流器とピン本体の電源を入れる。ダウザーとシャッターを全開にして舞台面に出す。大きさを申し合わせの通りリノリウム2枚分で固定する。同じく舞台上に出された3つの輪の明るさと大きさ、エッジを確認してからダウザーとシャッターを閉じ、電源をoffにする。それを確認するとランプ部分のカヴァーを開けレンズの前にフロストの#132を縦目で入れる。レンズにガムテープで張り終えるとランプルームを閉じ、再び電源on。そして4pinとも装着を確認すると再度、舞台上に出して明るさ、大きさ、エッジの再チェック。ほぼ揃っているのを確認できたら、out。
「ま、こんなもんでしょうかね」
八戒の言葉で各自、各々の支度に戻る。
各々とは云え、4人のとる行動は殆ど同じ。個人持ちのフォローブック(注・色やフロスト#132、シート等フォローの必需品を揃えたセット)からお手製の狙いを取り出す。バインド線を捩って作られたモノで台座がマグネットになっておりpinへの着脱可能なものだ(狙い実物はコチラ)。
舞台面への小さくピンを出す(注・光を出すって事)。小さな光の点が狙いの2本の頭の直線上に来るように調整する。(狙い方の図解説はこちら)
黙々と続けられる作業。狙いは暗転ピン抜き(注・暗転の中、pinを出す事)の命綱や、普段pinを出す場合の保険となる。狙いなどに頼るな。という輩もいるが、一手間掛けて正確性が高くなるのならば狙いは必要だろう。終始隈無く狙いに頼り、フォローを続けるのは問題だが、出すときの使用は賛成だ。
「さて、と」
八戒が自分の電源を切った。
「僕、先降りますよ」
左手にはめたフォロー用の革手袋(注・滅茶苦茶熱くなる部分に直接触れる為に絶対に必要。はめていても低温火傷を起こすことも珍しくない)を外しながら3人に声を掛ける。
「あっ俺も降りるわ」
「俺もっ。メシだろメシvvv」
悟浄と悟空が続く。
「三蔵は……降りますね」
「あぁ」
センターに上がって初めて発した言葉が八戒への答えだった。
4人はぞろぞろと来たときと同じように隊列を組んで階段を降りる。桃源ホールは数年前に建て替えられたばかりで舞台・CL間の通路がしっかりと確保されていた。猿梯子も匍匐前進も必要ない。足だけでは前に進めない通路のある小屋は決して少なくない。
「……なぁ。八戒さん? 質問なんだけど、上ピンと下ピンって何で拘んの? 」
打ちっ放しのコンクリートの階段を降りながら悟浄が常々思っていた疑問を口にした。
「上ピンと下ピンですか? 悟浄はどうだか知りませんが、僕は上ピンが好きですよv」
「それ答えになってねぇよ」
「そうですねぇ。え〜と、上ピンて上袖とるの楽でしょう。下袖とるのも楽だし」
「楽って姿勢が、か? 」
「えぇ。下ピンで上袖狙う時ってかなりpinを振らなきゃならないでしょう? 当然、躯も大きく振らなきゃならないし、安定が悪くなるんですよねぇ」
「でもよぉ中の2本だったら大してかわんなくね? 」
「あぁ矢っ張り」
何の脈絡もなく。八戒がてをポンと叩く。
「「「はぁっ? 」」」
二人の会話を背中越しに聞いていた2人と悟浄は間抜けな声を出してしまった。
「だ・か・ら。悟浄はへたれって事ですよv」
「何だ、そんな事か」
と、三蔵。
「うんうん」
納得顔は悟空。
「へ・へたれって……」
いわずもがな。
へたれ悟浄をサクッと無視し3人は階段を降りていく。
「悟空はわかりますか? 」
足の動きを止めず、八戒が問う。
「わかるぜ。間口の広い舞台だと大変だもんなっv」
「猿でもわかんのか。河童より使えんじゃねぇか」
三蔵が珍しく賛辞を口にした。
が。
「猿って云うなっ」
「そうですよ。三蔵。ちゃんと誉めなきゃ後輩は育ちませんよ」
むくれた金色の眸と、教育的指導色を濃くした翡翠の眸が睨む。
「へたれ猿って云わねぇだけ感謝しろってんだ」
負けじと悪態を残して三蔵は舞台袖へと降りていった。
「悟空、負けちゃ駄目ですからね。三蔵はあとできっちりと言い聞かせますからv」
「うんv」
仲の良い親子のようなコンビも舞台袖に繋がる扉へ向かった。
「な、なんなの……俺」
へたれ河童の泣き声を聞く者はない
瀕死の白鳥。本日の演目のメインディッシュである。かなりご高齢な女性ダンサーの十八番。くたばり……元い、死に損な……いやいや、死を目前にしてもなお、生への執着を見せる白鳥の舞。生命力を感じさせる若者が演じるのならば純粋に、作品に浸れるのだが。高名な高齢の女性ダンサーが演じると……。真剣に心配になってくる。瀕死なのは白鳥だけか? アンタもじゃ? 何て事は純粋なファンを前にしては口が裂けても云えないが……。
それは、さておき。この老体に鞭打ち踊るダンサー。拍手が鳴り止まなければアンコールで出る。迷惑なくらい出る。踊る。レヴェランス(注・挨拶のお辞儀)後、拍手が止まなければ下奥に引っ込んでしまう(下奥は、瀕死の出の場所。挨拶だけなら下前にハケる)。片手で数えられる内はまだ、我慢が利く。辛抱できる。
だが。仏の顔も三度までだというのに、2回もおまけをしてやったのに、まだ拍手の勢いが衰えなくて。アンコール好きの高名高齢ダンサーが下奥にハケてしまうと。拍手を続ければアンコールがあると知る観客を恨みたくもなる。
のほほんと、アンコールを許す舞台監督を憎みたくなる。
そして、最終的に思う。白鳥。貴様がいなけりゃ
「ちっ。くたばり損ないが……」
建前でなく本音が。
カチリ。
金属音と共に。
ピンルーム内の3人に聞こえてしまった。
「ご、ごじょ〜三蔵が狙ってるのpinの照準…だよ……な? 」
「云うな猿っ! 俺には何も見えねぇ……何もねぇんだよ。なぁ、そうだろ? おい……」
本来ならば、ピンの熱気で汗ばむ筈のピンルーム。
悟空と悟浄は凍死寸前。
八戒は、小春日和の笑顔を絶やさない。
三蔵は銀光りする愛銃を構えた
“ぱんっ”
軽やかな高い音が客席天井裏に轟く。
片隅に怯え固まる影二つ。
「はい、はい。其処までですよv」
悟浄と悟空を恐怖に引きつらせた音源が、悟浄と悟空を凍死寸前にまで追い込んだ根源に微笑みを向けた。
「三蔵でも瀕死の『出』は狙わなきゃ無理でしょう? 照準合わせる時間もないようですから次のは僕がとりますv」
八戒は笑みを崩さぬまま重ね合わせた手を解き、右手をダウザーとシャッターにかけ、左手でpinの前方を支える。シートホルダーに装填された色を確認するとバインド線を捩り作った照準で、下奥袖を狙う。
明かりが変わる。
この十数分間で幾度も聴かされた音が入る。
調光室と繋がるインカムから観世音の声も聞こえた。
『出るぜ』
「了解」
音が変わった。
狙うは『手』……否、死の射程距離に踏み込んでしまった白鳥の羽先。
神経を通わした左手親指がシャッターをホンの気持ち先行させる。中指を掛けたダウザーもすぐに後を追う。ゆっくりと。客席を埋める者に光の点を気取られぬよう。
やがて点は円となり羽先を捉えた。懸命な羽ばたきを光の中に浮かび上がらせる。
「……うぜぇ」
白鳥が舞台中に完全に姿を現すと三蔵が口を開いた。
「僕だって同感ですよ。アンコール6回目ですからねぇ」
死神に魅入られてもなお、生への執着を見せる白鳥を追いながら八戒が答えた。
「はっきり、きっぱり、お年なんですから躯を労ってあげなきゃ駄目です」
……。八戒様も苛ついていたらしい……。
結局。7回目のアンコール。終わって優雅なレヴェランス披露し、下前へハケてくれた。
「おっおい! 見たか?! 」
「見た見た!! 」
「「やっと下前だぁ〜〜〜!! 」」
下前ハケ。これでアンコールは終了の合図。
ピンルーム内には(主に悟浄と悟空の)安堵の空気が流れ、各々のインカムからは観世音の声が流れた。
『愉しそうだったなぁ』
「ふふっふふふふふふふふっ」
「「こえぇよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜」」
ガウンッガウンッ!!
桃源ホールの天井裏。小春日和みたいなのに滅茶苦茶恐い乾いた笑いと、二つのすすり泣き。それに三蔵の愛銃の発砲音が暫く続いた
「なぁ聞いたか? 」
「知ってるぜ。桃源ホールで『瀕死』やるとピンルームに、小春日和みたいなのにスゲー恐い乾いた笑いと、二つのすすり泣きが聞こえるってヤツだろ? 」
「そうそう。なんでも銃痕もあるらしいぜ」
「銃撃戦でもあったのかな……」
「さぁ。随分昔から云われてるからなぁ」
4人が舞台照明桃源社を引退し大往生してからのお話
【UP当時のコメント】
魔のカーテンコール。
有り難いことだとは思うのですがね……。
早く帰りたい日とか、御不浄へ早く行きたいときとか、バラシのある日とか。
長いカーテンコールは嫌ですねぇ。
鳴り止まぬ拍手
(*^^)//。・:*:・°★,。・:*:・°☆パチパチ(*^^)//。・:*:・°★,。・:*:・°☆パチパチ
……早く終わって。終・わ・れ!! 終わってくれぇ〜!! と真剣に思います。
きっと、三蔵様みたく切れそうになった経験をお持ちの方も多いと信じております!!
一応、大人だから声にしないだけで(笑)
鳴り止まない拍手も、幾度も開く緞帳も有り難いのでしょうが!
ちょっと、だけ額にタコマークが浮かんじゃったり。
【再UP現在のコメント】
やっちまったぃ!!
コレは、数年前に【舞台照明桃源社】
と云うサイトにUPしたモノです。
サイトを引っ越したときに引っ込めたのですが、再UPしたくなりまして。
やっちまいました。
でも。
もしかしたら。
調子に乗って【桃源社】シリーズを再UPしてくかも(笑)
まだ何本かあるんですよねぇ。
| * TrackBackについてお願い * 当blogへのトラックバックは、該当記事へのリンク必須で、お願いいたします。 関連性が無いと判断した場合、削除いたします。 尚、コメント・トラックバックは管理人の認証後の反映となります。 ご了承下さいませ。 |



⇒ 【ひろぽ】 (05/07)
⇒ 月猫 (05/07)
⇒ 【ひろぽ】 (04/28)
⇒ 【ひろぽ】 (04/28)
⇒ 香樹穂 (04/27)
⇒ 月猫 (04/26)
⇒ 【ひろぽ】 (04/09)
⇒ 月猫 (04/09)
⇒ 【ひろぽ】 (04/02)
⇒ 月猫 (04/02)